スパークス・グループ株式会社

09:ブランドをマネタイズしている企業に投資する  ウォーレン・バフェット

非財務情報の評価

バフェットさんのイノベーションは、ブランドの価値を認めたこと

バフェットさんのイノベーション、つまり、証券投資の歴史におけるバフェットさんの革新性を一言でいうと、「ブランドをマネタイズした(貨幣価値として定量化した)」と言えるのではないでしょうか。ブランド力というのは、企業の貸借対照表には計上されないため、定量的な評価が容易ではありません。しかし、バフェットさんは、ROEなどの尺度からブランド力を推察し果敢に投資することができました。
つまり、バフェットさんはROEが高い理由としてブランド力が高い会社に投資しているわけです。
ROEが高い会社を探しましょう、投資しましょうというときに、「同じようなドリンクを作っている会社なのに、なぜこの会社はあの会社より儲かるのか?」ということを考えてみる。もちろん作り方の違いなどもあるかもしれませんが、そこにブランド力の違いが表れているとも言えます。同じようなものを作っても高く売れるというのは、儲けるための秘訣です。それを実現するブランド力はROEの高さを維持できる要因の1つになります。
100円で作って、普通は200円くらいで売れるものを、無理やり1000円で売れば、一時的に売り上げは増えて利益率も上がるでしょう。ROEも一時的に高まります。しかし一度高く売りつけても、その後もお客さんが買い続けてくれなければ、儲からなくなってしまいます。1000円で売ればROEが上がるぞと考えても、その値段で買ってくれる人がいなければ、そのROEは実現できません。
一方、100円で作って300円とか400円で買ってくれるものがあれば、高いROEをキープできます。高いROEを維持できるだけの値段で買ってくれるかどうか。その大きな要因の1つがブランドなのです。

企業のブランド価値とは?

バフェットさんが重視する、企業のブランドとはいったいどのようなものか考えてみましょう。
消費者行動分析やブランドマネジメントに詳しい青木幸弘さんの論文「ブランド研究における近年の展開」によれば、ブランドの概念が確立されたのは、輸送や通信が発達し、物流と情報の拡散が始まった19世紀末ということです。
それまで地域ごとに移動が限定されていた市場が、地域や国境までも越えて拡大していく中で、製品の標準化と大量投入によって市場を創造するために必要とされたのがブランドです。
現代に至るマーケティングに結びついたブランドの考え方は、米国で1980年代に登場した「ブランド・エクイティ」(brand equity)の概念が基になっています。これは、イメージや顧客ロイヤリティといったもともとのブランドの概念に、マーケティングによって得られた市場・顧客情報の結果を統合し、資産的価値を与えるというものです
1990年代になるとマーケティングにおけるブランドの重要性はますます高まり、ブランディングの強化戦略へと関心が向けられていきます。どの企業も「どうやって強いブランドを作り上げるのか」「自社のブランドの『本質的意味と価値』とは何か」を追求し始めます。
企業のブランドを理解するには、ブランドが構築されるための段階的な構造を知らなければなりません。基本となるのは優れた製品力、つまり製品の競争優位性ですが、そこに消費者の感覚的な価値が上乗せされていき、さらに商品の価値が企業のイメージも高めていきます。こうして企業は強力なブランドを確立していくのです。
コカ・コーラを例にすると、最初は単なる美味しい炭酸飲料だったのが、大勢の消費者の中で良いイメージの飲み物となり、最終的にはコカ・コーラの商品価値がコカ・コーラ社の企業ブランドを強化していったのです。
つまり、企業のブランド価値とは、消費者に支持され、受け入れられる競争力のある商品によって出来上がっていくものです。ブランド価値の源泉は製品やサービスそのものではなく、消費者の体感や経験から生まれ強化されます。
消費者の体験が生み出す企業ブランドは、長期的に永続力があります。消費者に価値を認めてもらう商品の価値を維持できればブランド価値が失われることもありません。
バフェットさんは、このような企業を「深くて大きいモート(堀)がある」企業と呼び、参入障壁が高く他社が簡単には追随できない競争力のある企業として賛美しています。

割安に見えない会社の価値を見抜く

バフェットさんが保有する最も有名な株といえばコカ・コーラ社ですが、これこそ、投資価値を評価するに際して、ブランドをマネタイズ(貨幣価値化)した代表例です。
バフェットさんが株を買い始めた当時、コカ・コーラ株はバリュー投資家から見れば、割安ではありませんでした。すでにコカ・コーラは飲料メーカーとして十分に正当な株価がついており、グレアムさん流の考え方だけであれば、決して魅力のある投資とはいえなかったかもしれません。
しかし、バフェットさんは、コカ・コーラが非常に優良な会社であり、その優良さというのは財務諸表上には表れないブランド力によって今後も守られていくと考えました。世界中から愛され、すみずみまで知れ渡っているコカ・コーラのブランド自体が、短期的な価格の上下に惑わされない価値があり、今後も成長を続けていくと信じたのです。
バフェットさんは安いという理由だけで、株を買うことはありません。バフェットさんの本当のすごさは、一見安くは見えなくても、ブランドが持つ価値を貨幣の単位で評価し、その企業の株のポジションを大きく取って、長期的にコミットしていく、つまり保有し続けたことです。
そして、それを可能にしたのは、バフェットさんが企業評価に際して、経営者の人柄、能力を見ることに加えて、ブランド力を数量的価値として測る投資手法を確立したことにあります。

「深くて大きいモート( 堀)がある企業」に集中投資

最近のバフェットさんのお気に入り企業は、これまた人気ブランド企業として世界的に有名なアップルです。2018年には、バフェットさんは、アップル株を4割買い増し第3位株主に浮上しました。
アップルは、多くのメーカーがいろんなスマホを作っている中で「この値段でiPhoneを買いたい」という人がいるから、あれだけの利益率を維持できるわけです。バフェットさんが、世界の誰もが憧れるブランド力を持つアップルを長期にわたり継続的な利益を生み出す企業と考え、そこに大きくコミットした基本的な考え方は、コカ・コーラへの投資と同じです。
バフェットさんは、1990年代後半のITバブル時には、「わからないものには投資しない」という信念で、ハイテク企業に投資しなかったのですが、アップルのビジネスモデルが端末を販売するビジネスからサービスの利用者を囲い込む「アップル経済圏」づくりになり、「深くて大きいモート(堀)がある」企業に変化したのを評価したのではないかと思います。
バフェットさんの「ブランドをマネタイズして立派な企業に集中投資する」という投資手法は、多くの投資家に新たな気づきを与えました。