スパークス・グループ株式会社

04:先のことはわからない  ベンジャミン・グレアム

バリュー投資の原点

投資家であるなら、詳細に分析せよ

バフェットさんは「私の85%はグレアムからできていて、残り15%はフィッシャーからできている」と言っています。「グレアム」とは、「バリュー投資の父」と呼ばれるベンジャミン・グレアムさんのことです。バフェットさんの85%を形作っているというグレアムさんとは、いったいどんな人物なのでしょう。
グレアムさんはコロンビア大学の教授も務め、大恐慌の直後に自分の考え方をまとめて『証券分析』という本を書き、1934年に出版しました。その後、1949年には『賢明なる投資家』という本も出しています。これらのグレアムさんの著作は、株式投資に初めて科学的な観点を取り入れた画期的なものでした。グレアムさんの『証券分析』が出る前は、株式投資は競馬やばくちと一緒で、「一発当てたい」という合理性の乏しい世界だったそうです。「次はどういう株が値上がりするか」というストーリーばかりで市場は動いていたのです。その中でグレアムさんは、株式の本来の価値を考える方法を提唱し、「フェアバリュー(公正価格)はこういうもの」という科学を株式投資に取り入れた。合理的な論理を株式市場に取り入れたのです。それによって、「中世のギルドさながらの組織の慣習に支配された」証券投資への近代的アプローチが可能となったのです。
グレアムさんが提唱したことを簡単に言うと、「財務諸表の数字を見て、企業の現状を調べて株式投資をしましょう」ということです。PBR(株価純資産倍率)を見るとか、キャッシュフローを見るとか、今でも株式投資の基本として投資家なら誰でも学ぶべきことをグレアムさんは体系化して提唱したわけです。
グレアムさんは、『賢明なる投資家』の中で、投資を以下のように定義しています。「投資とは詳細な分析に基づいて、元本の安全性を守りつつ適正な収益を得るような行動を指す」。そして、「この原則を満たさない行為を投機と呼ぶ」
財務分析を徹底的に行い、実態価値より大幅に安い株式を見つけることこそが投資である、というわけです。
では、実態価値とは何か。グレアムさんは、純資産に代表される帳簿上に表れる明確な数字に、将来の収益力という明確ではない数字を加えたものと定義します。そして特に前者を重視します。それが、グレアムさんが「バリュー投資の父」といわれる所以です。
将来の収益力を測るために、グレアムさんは株式を疑似的な債券だと考え、株式を利回りや安全性で比較します。この考え方は、後にバフェットさんの「株式とは、会社がつぶれない限り利息が支払われる永久債券のようなものだ」という考えに発展していきます。

Is this for real?

グレアムさんは、「先のことはわからない。それゆえに、先のことを予想するのはやめるべきだ」と説き、今わかる価値を分析することの重要性を訴えました。
グレアムさんも未来を考えないというわけではありません。でも、未来を見通すことは難しいし、そもそも現実を見ていない投資家があまりにも多いから、まずは現実を見ましょうと言ったのです。まずは足場を確かめることが大事で、未来を見るというのは次の話だというわけです。わかること、できることをちゃんとやりましょうということを強調したわけです。
現実を見て、株式をきちんと評価するための第一のポイントとしてグレアムさんが挙げたのは、その企業が持っている現金や資産をしっかり見ることです。
私の言葉でいうと、「Is this for real?(この価値は真実なのか)」と問いを立て、価値を調べる。これこそがグレアムさんが伝えてきた概念なのだと思います。例えば、ある投資先候補の倉庫に行ったら、1つひとつの在庫を見て本当に売り物になるのかを確認するような地道な作業です。
バリュー投資では、現在の価値がどれほど真実であるのかを疑って調査していきます。今現在の価値を判断できないものに、将来の価値など判断することはできません。まずは、現在の価値を適切に見極めて、投資で「損する」リスクを減らしていきます。

安全余裕率を持って損をしない投資をすることが最重要

このようにグレアムさんのバリュー投資は、「いかに損をしない投資をするか」という点が重要視されています。実態価値よりも大幅に安く株式を購入できれば、「安全余裕率(マージン・オブ・セーフティ)」があり、元本の安全性を守ることができると考えています。
安全余裕率とは、グレアムさんによって提唱されたものです。スパークスでも、投資を決断する際に、まず、この安全余裕率があるのかどうかを詳細に分析します。「儲ける」ためには、「損をしないこと」が最も重要なのです。
バブルで日経平均株価が最高値をつけた年に創業したスパークスもすでに30年超。
これまでいろいろな投資家や起業家とお会いしてきましたが、この30年余りを生き抜いてきた人の数は、驚くほど少ないのです。一時、華々しく見えた人もほとんどが消えていきました。多くの人は、どこかの段階で、「損をしないこと」よりも、「儲けること」に目がくらみ、自らの欲望に負けてしまうのです。

「健全な投資とは何か」を一生考え続けた

グレアムさんは、1894年、ロンドンのユダヤ系の家庭に生まれ、1歳のときにニューヨークに移住しました。9歳のときに父親を亡くし、富裕層から転落、裕福とは言えない生活を送りましたが、奨学金を獲得しコロンビア大学で優秀な成績を収め、証券会社に入社します。そして、証券会社で多くの経験を積んだ後、1926年に投資会社「グレアム・ニューマン」を設立しました。若かりし頃のバフェットさんも、ここで働いたことがあります。
私はバフェット・クラブでグレアムさんを語る際、幼い頃、彼が経済的に困窮したことを、まず話します。父親の死後、母親が株の信用取引を始めたものの、大暴落で失敗。グレアムさんは、銀行から5ドル借りるのも難しかったという屈辱的な体験をしています。
彼は、この原体験があるからこそ、「健全な投資とはいかなるものなのか」を一生考え続け、死の直前まで、自らの投資手法の更新を続けるのです。
バフェット・クラブが、若い頃の貧しさを原体験にバリュー投資を編み出したグレアムさんの勉強から始めるのは、私たちが「損をしない」という投資の初心を忘れないためでもあるのです。