スパークス・グループ株式会社

01:本当に良い会社は少ししかない  ウォーレン・バフェット

本当に良い会社とは

「資本主義は驚くほどうまくいっている」

ウォーレン・バフェットさんが率いるバークシャー・ハサウェイの株主総会は、世界中の投資家から注目される大イベントです。毎年5月、本社があるネブラスカ州のオマハで開催され、通常であれば数万人ものバフェット・ファンの株主が集まります。参加者のお目当ては何といっても、バフェットさんが何を語るか、です。
2021年の株主総会は、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催になりましたが、90歳になった「オマハの賢人」は株主に向かって多くのことを語りました。そして、あるスライドを示して「資本主義の成功」を次のように述べたそうです。
「資本主義は驚くほどうまくいっている。特に資本家にとってはね」
そのスライドによると、1980年初めに米国株を買っていれば、2020年には資産が約40倍になった計算です。

時価総額ランキングの3 0年比較から言えること

バフェットさんが「資本主義の成功の証左」として示したスライドは、もう1枚ありました。それは日本に関連するものでした。2021年3月末と1989年末の世界の株式時価総額上位20社の比較です。
2021年は、1位がアップル、2位がサウジアラビアの石油会社サウジアラムコ、3位がマイクロソフト、4位がアマゾン、5位がグーグルの親会社のアルファベットです。みなさんご存じの企業がずらりと並んでいます。
一方、1989年は、なんと日本企業が上位4社を占めていました。1位が日本興業銀行、2位が住友銀行、3位が富士銀行、4位が第一勧業銀行です。その後の金融機関の再編で消えてしまった行名ばかりですが、まさに日本のバブル経済のピークにあった当時の状況を示しています。
では、1989年と2021年の時価総額上位企業の比較で何がわかるのでしょうか。バフェットさんは次のように
30年の変化を解説したそうです。
1989に世界一だった日本興業銀行の時価総額は1040億ドル。ざっと10兆円です。これに対して2021年に世界一となったアップルの時価総額は2.05兆ドル。ざっと200兆円です。つまり「時価総額世界一」のレベルがぐんと上がって、20倍になったわけです。
さらに、世界のGDPに対する割合を計算すると、1989年の日本興業銀行は約0.5%でしたが、2021年のアップルは約2.4%に相当するまで大きくなっています。約30年の間に世界経済は5倍に成長しましたが、時価総額のトップはさらに大きくなって20倍になった。これこそ「資本主義の成功の証左」だというわけです。

隆盛を誇る会社が良い会社であり続ける保証はない

さて、この時価総額のスライドは、さらに別の視点で見ることもできます。
1989年のアップルは、おもしろい会社ではあったけれど、時価総額世界一になるなんて、誰も想像していなかったと思います。
さらに言えば、アップルが今後も隆盛を守り続けることができるかどうかもわかりません。日本興業銀行がそうだったように。1989年当時、日本興業銀行をはじめとする日本の銀行は隆盛を誇っていたわけ
です。いま「GAFAの時代」と言われますが、それは1989年当時に「日本の銀行が世界の銀行」と言われていたことを彷彿させます。
本当に良い会社というのは、その時々で話題を独占している会社でもなければ、その時々でみんなが圧倒的に良いと思っている会社でもないのです。バフェットさんのポートフォリオで、この20年、30年で大きく新しく加わった会社は、実はアップルくらいです。また、バフェットさんは「ジェフ・ベゾスのアマゾンを買わなかったのは失敗だった」と告白しています。つまり、アップルやアマゾンは良い会社だと思っているわけです。
バフェットさんのレベルで見て「本当に良い会社」と言える会社は、そのくらいしかない。「本当に良い会社といる会社は少ない」というのは、バフェットさんが50年間バークシャー・ハサウェイという投資会社を経営した実感でしょう。
私も本当にそう思います。この仕事を30年やってきて、日本で良い会社であり続けた会社は本当に少なかった。「小が大になった」という会社の良い例はユニクロのファーストリテイリングです。「ずっと大きくて、さらに大きくなった」という意味ではトヨタ自動車くらいです。その時々のヒーローはたくさんいましたが、「出ては消え、出ては消え」です。
そこをどう見極めていくかは、本当に難しい。だけど、バフェットさんはそれをやり続けている。そこにどういうやり方があって、真理があるのか。それがバフェットさんを勉強するときの一番重要なポイントです。