スパークス・グループ株式会社

23:まずは企業を大づかみにせよ

企業の全体像

企業全体の形、イメージを理解

引き続き、スパークス型投資の原点である「企業の実態価値と価格(株価)との間に生じる差異の裁定機会に主体的に参加する」ということを考えていきましょう。
スパークスに入ってきたばかりのアナリストには、「この会社は良いですよ、株価が安いですよ」とEPS(1株当たり利益)やPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)を並べ立てて説明を始めようとする人たちがいます。
証券分析の知識がある人に限って、会社の総資産や株主資本などバランスシートの形について、よく調べていない場合が多いようです。売上高、利益、時価総額を聞いてみるとすぐに答えられなかったりするのです。個人投資家向けのマネー誌を見ていても、指標のランキングが並んでいるものが多いですが、ああいう形で企業を考えてしまうのですね。
これでは「木を見て森を見ず」で、本末転倒です。
私はまず、バランスシートで企業の大きさと形を見て、売上高がいくらあって、利益が何億円出ていて、社員数はどのくらいで、どんな風に利益を出している会社なのか、まず大づかみすることが一番大事だと教えています。バランスシートや損益計算書を見ていくと、その企業の経営者の考え方、性格もぼんやりと見えてきます。まず
は企業全体の形、イメージをしっかりと理解することです。

同業でも大きく異なる企業文化

さらには、企業のブランドともつながる話ですが、企業の文化というか強さの源泉を調べていくことが大切です。
例を挙げましょう。この間、久しぶりに、家電量販店に関する社内勉強会をしていて、ヤマダ電機とカトーデンキ(現在のケーズホールディングス)を1990年代に必死に調べたのを思い出しました。
私がスパークスを創業したのは、日経平均株価が最高値をつけた1989年のことでした。その後、大型株が大暴落していく中で、私が注目したのが、従来のパラダイムを壊して新しい成長機会を見つけている中小型株でした。そんな中に勃興期を迎えていた家電量販業界があったのです。
両社は、大規模小売店舗法の規制緩和という追い風に乗って、巨大メーカーが生産から販売に至るバリューチェーンを独占し、商品の価格形成も割高できわめて硬直的だった市場に「価格破壊」の新風を吹き込み急成長していました。当時、スパークスも投資し大きな成果を得ています。
急成長を遂げたヤマダ電機とカトーデンキでしたが、社風はまったく異なりました。ヤマダ電機の山田昇社長は、ビクターの商品修理店主からの転身です。私は当時のヤマダ電機を訪問した際に、店舗の奥にあった社長室に通されて、山田社長にお話を伺ったのを昨日のことのように思い出します。
失礼ながら、ヨレヨレの上着にズボン、白い靴下に黒い運動靴といういでたちでした。そこで山田社長は、目を輝かせながら、職人らしい几帳面な語り口でこう語ったのです。「現在、群雄割拠の家電量販業界は将来3社に集約されるが、当社はそのうちの1つに絶対入る」。現在、約1兆6000億円あるヤマダ電機の売上高がまだ300億円だった頃の話です。
成長を見込んで同社は、希薄化を伴う増資を繰り返したので、株主として中止を願うお手紙を差し上げたところ、「増資で得た資金は必ず有効に使い株主にお返しします」と丁寧なお返事を頂戴しました。
一方、カトーデンキの加藤修一社長は、いかにも商人で堅実な方に見えました。現金商売で、社員が無理をしない「がんばらない」経営を当時から標榜していました。「急成長したら会社の寿命が来てしまうから、ゆっくり大きくしよう」と、おっしゃっていました。
同じ業界にいても、これほどまでに企業文化が異なるのです。今、両社共に、社長は創業家出身ではありませんが、勉強会でいまだ両社のカラーが変わっていないことを確認しました。
「企業の実態価値を測ろう」というと、なんだか大ごとのような気がしてきますが、まずは、こんなところから始めてみれば良いのです。