スパークス・グループ株式会社

27:マクロはミクロの集積である

調査の方法

わかる「ミクロ」を積み上げると、わからなかった「マクロ」が見える

「マクロはミクロの集積である」という言葉も、私が創業当初から運用調査を担当するメンバーに言い続けていることです。ここで言う「マクロ」とは、マクロ経済というよりも「わからないこと」という意味で象徴的に使っています。例えば、短期的に日本経済の成長率がどうなるのか、日経平均株価が来月、半年後、1年後にいくらになっているのかということがよくマスメディアで論じられていますが、それらを正確に予想することはできません。つまり、「マクロ」のことは、短期的には、正確に言い当てることができないのです。
一方で、わかることはあります。それは、私たちが毎日行っていることであり、これを私は「ミクロ」と呼んでいます。私たちの仕事でいえば、それぞれの会社で今起こっていることはわかるのです。「ミクロ」を一番よく知っているのは、その会社の人、さらにいえば、会社の経営者です。つまり、「会社を評価するとき、わかることを一生懸命わかるように努力しましょう」という意味で、私は「マクロはミクロの集積である」という言葉を呪文のように社員に繰り返し唱えてきました。
1カ月後、半年後、会社にどういうことが起こる可能性があるのかということを最初に感じるのは、その会社の社員であり、経営者なのです。その経営者、社員の言葉を直接聞こうということで、創業以来、全員で手分けをして、実際に会社に出向き、直接お話を聞くことを続けてきました。
スパークスは創業から30年を超え、規模も拡大し、今では年間2800回以上(コロナ禍以前の2018年実績)の企業取材を行っています。もちろん、フィッシャーさんのところでお伝えした「周辺情報活用法」(コラム「先のことはわからないから調べよう」参照)も重要ですが、調査の原点は、やはり「現地現物」の企業調査にあると考えています。
わかること、「ミクロ」を徹底的に、できるだけ正確に知ろう。こうした考えのもと、「現地現物」で「ミクロ」の情報を集めていくことにより、時代の大きな流れが見え、日本経済の長期的トレンドと形が少しずつイメージできてくるのです。まさに「ミクロの集積の中に見えるマクロ」です。
株式市場が年末どうなるのか、ある会社の半年後の株価がどうなるのか、といった「マクロ」に関する予想を議論することは、スパークスが行うべきことではありません。その会社が今どういう状況で、経営者が何を考えていて、どういうことを問題として意識し、解決しようとしているかという「ミクロ」を集積することによって、
「マクロ」を構築していくのです。

A I 時代だからこそ、人間の主体的なミクロ調査が重要

「マクロはミクロの集積である」という言葉を私は30年前に言い始めましたが、この言葉の重みは、現在さらに増してきていると思います。AIで株価を予想することが有効であるかのような錯覚を多くの市場参加者が持ち始めているからです。
AIによって価格を予想した場合、正確であろうとすればするほど、投資の期間は短くなります。その結果、1秒にもならないような短時間で、膨大な資金の回転売買が行われている状況です。つまり、投資する時間がどんどん短くなっているのです。わからない「マクロ」をAIで知ろうとして、「わかる」という錯覚のもとにお金が動いています。
だからこそ私は、「マクロはミクロの集積である」という言葉の重みが増していると考えているのです。「ミクロ」の世界は、リアルなビジネスの世界です。ビジネスも企業も最終的には人間が営むのです。
AIの助けを借りることはあったとしても、最終的には、人間が主体的に、今、リアルに起こっていることを1つひとつ徹底的に調べていくことが大切です。AI化する市場がバーチャルになればなるほど、私たちに資金を託す投資家のみなさんのために私たちができることは、「ミクロ」の世界を1つひとつ確実に積み上げていくことに尽きると思います。そこから見えてくる「マクロ」の形こそが、日本経済、株式市場の現実(リアル)だからです。

「マクロはミクロの集積である」。この言葉は、スパークスがリアルな投資をするための最も重要な呪文、マントラだと思っています。