31:世界を豊かに、健やかに、そして幸せにする
アダム・スミスの教え
アダム・スミスが説いた幸福論とは
近年、「バフェット・クラブ」で、取り上げるようになったのはアダム・スミスです。
富が偏在する現代、世界の子供の6人に1人が相対的貧困状態にあると言われます。こんな時代だからこそ、急激な経済発展による経済格差が広がった18世紀に生きた「経済学の父」アダム・スミスに学ぶものがあるのではないかと、ひも解いてみたところ、まさにそのような記述を見つけたのです。
大阪大学の堂目卓生教授の著者『アダム・スミス―『道徳感情論』と『国富論』の世界』によれば、アダム・スミスは幸福を次のように定義しているといいます。
「幸福は平静とenjoymentにある。平静なしにenjoymentはありえないし、完全な平静があるところでは、どんなものごとでも、ほとんどの場合、それを楽しむことができる」
それでは、心を平静に保つために必要十分なものは何だとアダム・スミスは考えたのでしょうか。アダム・スミスは「健康で、負債がなく、良心にやましいところのない人に対して何を付け加えることができようか。この境遇にある人に対しては、財産のそれ以上の増加はすべて余計なものだというべきだろう」と語っています。
この2つの引用は、共に、1759年に発表された『道徳感情論』からなされています。
アダム・スミスというと、1776年の『国富論』の「見えざる手」が有名で、市場原理がすべてを解決してくれることを説いた人物というイメージがあります。しかし、その大前提としてアダム・スミスは、人間とは自分だけが幸せであればいいというのでなく、自分よりも困っている人に対するシンパシー(共感)を持つ存在だと『道
徳感情論』の中で定義しており、その前提の上で、人間同士が動き社会を形成すると、「見えざる手」が働き、社会全体の利益をもたらすと考えていたのです。
『道徳感情論』では、また、人間には一定以上所得が増えても幸福度が増大しないことを知っている賢明な人と、より多くの富や地位が幸福度の増大につながると考える弱い人がいるとしています。ただ経済の成長は、より多くの富を追求する弱い人の存在によって発展していく側面があると分析しています。
「世界を豊かに、健やかに、そして幸せにする」
こうしたスミスの考えに刺激され、スパークスは私たちの会社のパーパスを「世界を豊かに、健やかに、そして幸せにする」としました。資本の水先案内人として、お客様の資産を預かり、必要なところに導くことで、働く人たちも、社会も、そして、株主も幸せにすることができる社会を作りたいと、アダム・スミスの言葉に触発されてイメージを具体化することができたのです。
米中の貿易摩擦問題で保護主義的な考え方が台頭しています。「賢人」は姿を消し、人間の「弱い人」の側面ばかりが目につくようで心配です。
改めて、ここで私たちは、アダム・スミスが唱えた「人間は共感できる生き物である」という精神を思い出し、自らが生きていることを幸運と考え、自分だけでなく他人の幸福のために何ができるのかを考えなければいけないのだと思います。